DB in STATION

「D-BROSだけのショップってないのかなあ」と思っていた読者の方に朗報。さる2月25日、とうとうD-BROSのオンリーショップがオープンした。

ショップの名前は「DB in STATION」。 https://www.d-bros.jp/ 名前が示すとおり、場所はJR品川駅構内エキュート品川の中である。デザイン通好みの印象があるD-BROSが、あらゆる人々のやってくる駅の中で展開、と聞いて驚くが、これもまた熟慮の結果。エキナカの、そしてD-BROSの可能性を広げる新たな一歩となっている。

DB in STATIONではこれまでのD-BROS商品も並んでいるが、ショップの中心となっているのは、彼らの新しいプロジェクト「STAMP it」だ。お客さんは無地のノート、カード、封筒(609円〜945円)などを買い、D-BROSのオリジナルデザインスタンプを自由に押せる、という仕組み。「商品」と同時に「行為」も楽しむ、新しい形のお買い物だ。

店頭に並ぶスタンプの数は300種。他に店員の人に押してもらう大型のスタンプもあり、また母の日や暑中見舞いなどシーズン毎にスタンプの種類は変えていく予定で、現在用意しているスタンプの数は340種ほどあるという。

STAMP itが生まれた理由はいくつかあるが、D-BROSのクリエイティブディレクター宮田識さん(ドラフト代表)が会議中に「カスタマイズ」というキーワードを書き出したのと同時に、私達がスタンプ等を使って無限にできる商品デザインを考えていたことが見事にハマり、企画がスタートしました、とアートディレクター、渡邉良重さん、植原亮輔さんは説明する。

植原「今回の出店に当たって宮田から最初に出てきた言葉がカスタマイズだったんです。同時に僕もスタンプを使って商品が無限に増やせる方法はないものかと考えていました。他にも、刺繍、型抜き、エンボス、箔押しの機械を導入するとかいろいろ会議ではアイデアが出て来たんだけど、結局スタンプ一本に絞ろうということなりました。スタンプはネタとして温めていたんです。ポスターやクリスマスカード、年賀状とかでも使っていました。お店で使っているのは、brotherのスタンプなんですけど、これがいわゆるゴム判と違ってかなり綺麗で、インクも長持ちするし、凄いね、と思っていたので。」

エキュートの中でDB in STATIONのスペースはそれほど大きいわけではないが、他の雑貨店などを通ってから見た場合、これまでの商品をめいっぱい並べても若干閑散とした印象を受けてしまうだろう。しかしながら、ハンコの量、専用の台を取り囲む人の多さや賑わいが、そのような印象を払拭している。

植原「スタンプだと組み合わせによっていくらでもできるでしょう。だからカスタマイズが無限に楽しめる。アイテムを数種類つくるだけで、デザインは無限にできるので、商品を並べる棚が少ないという欠点も解消できる。見ていると皆さん結構長居してくれて、1時間くらいいる人もいるんですよ。」

私達が取材に行ったのはオープン初日とはいえ、平日の昼間。しかし少なくても5人、多い時は10人ほどの人がスタンプを押す台を囲んでいる。人が無駄に動かなくてもいいよう、どの場所からもハンコに手が届くようにしていたり、ハンコの台をスライド式にしたり、店員さんに頼んで押してもらう大きな版などは台の側面に引き出し式に収納するなど、台のデザインもよく出来ている。これはドラフトとインテリアデザイナー真喜志奈美さん( Luft https://www.luftworks.jp/ )によって考えられたものだ。


ショップカードは本の背を固めるのと同じ方法で、赤い糊で束ねてあるものを1枚1枚剥がしていく。グラフィックは植原さん曰く「文字だけで構成してクールな感じに、気がつくか気がつかない程度に透明グロスニスで、少し気を使ってるという感じを出した」もの。

先に書いた通り、D-BROSの初のショップ出店が駅の中、というのはかなり意外な気がする。直接的な理由としては、ドラフトがアートディレクションを務めるパンを中心としたカフェのキャスロン https://www.caslon.co.jp/ が品川駅のエキュート品川にオープンすることが決まったことから縁ができた、という経緯だ。
D-BROSだと意識しないで入ってくる一般のお客さんが多く、下は10歳くらいから上は70代くらいまでだろうか、楽しそうに眺めたりスタンプを押したりしている。静かな環境で1つ1つをゆっくりと眺める、いわゆるデザインショップとはかなり趣が異なる。

渡邉「見てるとお客さんが楽しそうなんですよね。オープン前はみんな慎重に選んで押すのかな?と思ったら、バンバン押していて、私だったらすごく気になるんですけど(笑)カスレなんか気にしていない」
植原「普通だったら青山の裏通りとか想像しやすいですよね。自分でも前だったら青山じゃないと、と思ったはずなんですけど、この2年くらい、もっと開いていかないとダメだなと思うようになっていて、宮田ともそういう話をしています。
今考えてみると、いきなり大きな店や路面店だと力が入りすぎて、方向性決めるだけでも大変。駅の中は制約もあるから逆に焦点も絞れたのがよかったです。世の中の傾向としてものづくり系のお店が流行っていて、人が集まっているというのはちょっといい感じ、幸せな感じがしますね」

これまでデザイン通のものと思われていたD-BROSの製品が、駅の中に入り、老若男女を問わず、多くの人々が楽しそうな空気を醸している。このことは、ここ10年ほど続いたデザインブームの1つの帰着点であり、新しい出発点なのではないかと思う。内輪受けではなく開いていくデザイン。その開き方のデザインが意識される時代に入ったと感じる。

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