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11/3まで!DESIGN TIDE TOKYOレポート(その2)

2011/10/30

DESIGN TIDEメイン会場で気になったデザイナーをもう少し紹介します。元木大輔氏がベルギーのsixinchというファニチャーメーカーとタッグを組んで生まれた「フリップ・シリーズ」というリバーシブル・ファニチャー。家具を裏返すってどういうことだ? と思ったら、その通り、ひっくり返して使うものだった。

元木大輔「Flip series#3」

元木大輔「Flip series#2」

これはひっくり返すとロッキングチェアになるソファ。その他、チェアからスツールになるもの、高さが変わるチェアになるもの、と3タイプ。子どもの頃に椅子をひっくり返して、カウンターを作ったり、それが車になったりと遊んだことを思い出した。プレイフルで楽しい家具である。キースへリングにオマージュを捧げたというコースターのイラストもこの家具に合っていてよいなあと。

TRAME side table + shelf

Slash

PROP, shelf

DESIGN SOILというプロジェクト。これは神戸芸術工科大学の田頭章徳助教がディレクターとなり、有志の学生を集めて立ち上げたもの。テーマは簡単「梱包状態で飛行機の機内持ち込み手荷物規定サイズに収まる」家具である。輸送コストをかけず配送したい、旅先で出会った家具をそのまま持ち帰りたい。そして、ミラノサローネに手持ちで持っていきたい。さまざまな思惑がこのプロダクトに込められたのだ。左の「TRAME」は2枚のトレイをフレームにおさめることで棚になるというプロダクト。右のSLASHはスパッと日本刀で竹を切ったような潔いコートスタンド。下のPROPは組木シェルフである。パーツに分けると非常にコンパクトになる。どれも。

YANOBI「Snow Plate」

YANOBIによる「Snow Plate」も素敵であった。雪にぐっぐっと何かで押された跡がついたような不均一なくぼみのあるプレート。オードブルを乗せる時にはもちろん普通に使えるが、刺し身をのせるときにこのくぼみにしょうゆを垂らしたり、ゆで卵を乗せる時に塩を置いたり。料理の皿を完全にセパレートしたくはないが、向こうの領域に犯されては困るような状況はよくあることだろう。食事を振る舞うことが好きな人が考えたと思われる、気の利いたデザインだ。

デザイナーの鈴木篤、木工・家具デザイナーの竹内秀典、写真家・グラフィックデザイナーの大西正一によるデザインプロジェクトrabbit hole。りんごの形をしたペンシルシャープナー。大きいじゃないか、と思ったが、鉛筆の削りカスがシュルシュル出てくる様が、リンゴの皮を剥いた時のように見える。その話を聞いて、俄然この品が欲しくなった。すべてのプロダクトにそのようなひとネタストーリーがあるそうだ。
Design Tideの今年のプロダクトを見ていて、やはりいまの時代にモノ作りをする人たちはよほどのことを考えなくてはいけないのだということを再度思い知らされた。単に作りたいという欲求だけでは、ムダな労力と資源の浪費にしかならない。機能なんてあって当たり前のことで、プラスアルファの要素をどこに持ってくるか、ユーモアか、装飾か、思考の転換か、はたまた作り手自身の魅力か……。モノを作る方も切実だろうが、買う方も必死である。薄い財布のヒモを握りしめながら、本当に欲しいものを求める。ゴージャスな家具など到底手に入らないが、大量生産品ではなんとも味気ない、そうした心の隙間にピッとフィットするものに多少なりとも対価を払いたいという気持ちになる。そう考えているのは私だけではないだろう。

だが、そう簡単にモノは売れないよということを大半のデザイナーが熟知していており、それを踏まえた上で、流通・販売のことまで考え、試行錯誤している様がひしと伝わってきた。

これ以上新しいモノは要らない、と言い捨てることは簡単だが、そこで思考までストップしてしまっては一歩も先に進めない。今回様々な角度からのトークが催されるのも、未来のデザインの姿について、結論なんて誰にも分からないが、いまは「語ること」が必要なのかもしれない。

取材・文/上條桂子(フリー編集者)

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11/3まで!DESIGN TIDE TOKYOレポート(その1)

2011/10/28

今年も秋のデザインイベントウィークが始まった。
都内のいたるところで、家具、建築、プロダクト、グラフィック、ファッション……といったデザインにまつわるさまざまなイベントが開催されている。

デザインイベントの中核をなす、DESIGN TIDE TOKYO2011の会場に行ってきたので、さっそくレポートしたい。

まず最初に目に付いたのは「Mark-ing」展のブース。

British CouncilとE&Yが共同で行ったプレゼンテーションで、全体のキュレーションをE&Yの松澤剛、イギリスサイドのキュレーションをMax Fraserが務め、各国8名ずつのデザイナーの活動が紹介された。会場およびグラフィックデザインはスープデザインの尾原史和。この展示で興味深いのは、単にデザイナーの最新の仕事を紹介するのではなく、新旧問わずデザイナーの作品ひとつと、血脈にとくとくと流れている精神「Fragment」を紹介しているところだ。

織咲誠「Hole Works」(1990)

例えば、織咲誠の「Hole Works」は1990年に発表されたもの。身の回りにある大量生産品にただ穴を空ける、それだけでそのものがアートピースになるという作品だ。

織咲氏のFragmentはプラスチック。

中村竜治「hechima」(2005)

中村竜治が展示したのは「hechima」。薄い木の板をひたすら波形に成形して作ったもので、氏の作品ではさまざまな素材でこのようなやわらかくて固いヘ
チマ構造が登場する。中村氏のFragmentは「波板」である。納得。

Benjamin Hubert「maritime」(2011)

イギリス勢も紹介しておこう。1984年生まれの若手作家Benjamin Hubertである。彼が提示したFragmentは「絵筆」。大学ではデザインを専攻し、それまでやっていた絵筆は一度も触っていない。しかし、作品の断片には絵筆の存在がある、のだという。
キュレーションを務めた松澤氏は「今回紹介するデザイナーたちが取り組んでいるデザインは、決して表層ではなく、流行でもない。彼らをひとつの作品ではなく“人”として紹介したかった」と語る。なるほど、紹介された方たちの活動をすべて知っているわけではないが、数名のデザイナーの断片を見ると、ずっとしつこく同じことを問い続けているような、研究者、あるいは求道者のような精神が見えてくる。

もうひとつ、海外勢を紹介しておこう。

MADE HERE

Coline Shaelli

「MADE HERE」という家具シリーズを発表したスイスのデザイナーColin Schaelliだ。con. temporary furnitureと名づけられたその家具は、ラーチ(唐松)またはシナのプライウッドの合板を素材とし、1枚の畳のサイズを規格とし、それをグリッドで等分してひとつの家具ユニットが作られ、ネジやビスは一切使わない、組木の手法で作られている。生産については、スイスと日本の2拠点で行っており、輸送コストを大幅に軽減。家具量販店のものではなく、しかし適正な価格で、シンプルかつ丈夫な家具を提供しようという試みだ。

ナチュラル棚がいかに丈夫か、を表す商品のヴィジュアルも秀逸だし、シリーズのネーミングセンスも抜群である。販売はオンラインで行う。このURLもイイネ!
https://www.ownlineshop.com/

今年は、メインのエキシビションに加え、TIDE tableと呼ばれるトークイベントのコーナーが設置され、期間中毎日デザインの仕事に携わるクリエイターのレクチャーが開催される。テーマは「ジャーナリズム」「デザインイベントの意義」「建築家が考える復興」「ドイツのデザイン」等々、何かモノ作りをするデザインだけではなく、その場や社会を作り上げるデザインにいたるまで幅広い議論がされることが予想される。

タイムテーブルは以下をご参照いただきたい。
httpss://designtide.jp/table-tide2011/

取材・文/上條桂子(フリー編集者)

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【25日まで!】ozone:川上元美 デザインの軌跡展

2011/09/23

25日まで開催中の、リビングデザインセンターOZONE「MOTOMI KAWAKAMI CHRONICLE 1966-2011 川上元美 デザインの軌跡」は、デザインに関係する人たちにはぜひご覧いただきたい展覧会である。

川上元美氏は、「箸から橋までをデザインするデザイナー」と呼ばれている、非常に幅広い分野で活躍しているプロダクトデザイナー。1960年代後半からデザイン活動をはじめ、40年以上にわたり第一線で活躍している。

この展覧会では1966年に渡伊しアンジェロ・マンジャロッティ氏に師事してから現在までの45年におよぶ氏のデザイン活動の奇跡を紹介する。

川上氏の代表作にアルフレックスのチェア「NT」やカッシーナのフォールディングチェア「BRITZ/TUNE」などがあるが、先ほど「箸から橋まで」と例えたようにもちろんデザインは椅子にとどまらない。チェアにソファにライト、テーブル、ウィスキーの瓶、お茶の缶、漆器、そして橋、神棚……。川上氏が手掛けたプロダクト、家具、インテリアは800点以上にのぼる。
非常に幅広い領域にわたって、さまざまなプロダクトを手掛けているが、ひとつひとつ見ていくと、どれも非常に上品で真面目につくられたものだということがうかがえる。それも氏の人柄ゆえのことなのだろう。

そんな幅広いジャンルにわたる膨大な数の氏の作品を、まるで宝物を探していくような斬新な構成で見せてくれたのは、トラフ建築設計事務所である。会場入り口すぐのエリアは、川上氏が手掛けた椅子の作品を見せる空間になっている。

ホワイエ正面

ホワイエ正面

奥のホールに行くと、大小さまざまな大きさの四角いボックスの中に各作品の実物や映像、スケッチなどが展示されている。正面から見ると四角い小屋ばポコポコとあるだけで、どんなプロダクトがあるのかは伺い知れない。箱と箱の間は小道のようになっており、その通路を歩いていると側面に開けられた窓から、その箱の中のプロダクトがチラリと見える。そのチラリにそそられて、いろんな箱をのぞいて廻るというような仕掛けだ。窓からは、川上氏の姿もチラ見することができる。

正面から見るとこんな感じ。箱が織り重なっている。奥に川上氏の姿が。

俯瞰正面

上から見るとこんな感じ

さらに奥へと進んでいくと、川上氏が多く手掛けた椅子が並べられた広場に出る。その広場では氏の椅子に実際に座ることができ、資料などを閲覧できる。

広場

実際に座り心地も試してほしい

もうひとつ面白いのがスタイリスト長山智美さんによる、川上さんのお部屋である。この部屋は本展のために作られたもので、川上氏が手掛けたプロダクト、ま た川上氏の自宅の家具をヒントに「川上さんがもし南国に別荘を持っていたら」と構想を広げ、長山さんが集めてきたエスニック調の布やプロダクトでスタイリ ングされている。

長山智美さんがスタイリングした部屋

また、高い山の山野英之さんが手掛ける展覧会のグラフィックも秀逸なのでぜひご覧いただきたい。会場全体のサインに使用されている書体はSABON。これ は川上氏がデザイン活動を始めた1966年と時期を同じくして発売され、現在でも多くのデザイナーに愛されている書体。川上氏のデザインのようにシンプル かつ上品で長きにわたり愛されている書体をサインと展示ロゴにあしらった。展覧会のメインヴィジュアルにも注目してほしい。通常家具やプロダクトのデザイ ナーの展覧会であれば、作品の写真やそのフォルムを模したモチーフが並ぶグラフィックになるはずだが、シャキーンと斜めに入ったグラデーションの1本の 線、それのみ。氏の多岐にわたるデザイン活動と時間の経過を1本の線に託した、非常に潔いデザインである。

メインヴィジュアル

主役はもちろん川上氏の洗練されたプロダクトや家具の数々なのだが、その展示方法やサイン等にも注目してぜひご覧いただきたい。明日まで!お見逃しなきよう!

会期     2011年9月9日(金)~ 9月25日(日)
時間    10:30~19:00
会場    リビングデザインセンターOZONE(3F パークタワーホール)
〒163-1062 東京都新宿区西新宿3-7-1新宿パークタワー
主催    川上元美展をつくる会、カワカミデザインルーム
企画制作    株式会社 TRUNK
特別協力    リビングデザインセンターOZONE
入場料    無料
問い合わせ先    03-5322-6500(10:30~19:00 水曜日休館)

(取材・文・写真下2点:上條桂子、写真上4点:大木大輔)

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【特集】着る人の自信を見せるユニフォーム HAKUI 

2011/09/20

ファッションブランド「ズッカ」の創始者である小野塚秋良氏は、2011年春夏コレクションを最後にズッカを引退した。現在ズッカの店頭では2011年秋冬コレクションが並び、今後ズッカの店では小野塚氏のデザインを見ることはない。寂しいことだが、とはいえ小野塚氏がデザイン活動自体を辞めてしまったわけではなく、現在も小野塚氏がデザインを手がけるユニフォームのブランド「HAKUI」は継続中である。

hakui web
https://www.hakui-shop.com/
Photo/t7、t15、t16、t20=MISCHA RICHTER、t17、t18、t19=CHRIS BROOKS

HAKUIが始まったのは1992年。それ以前から小野塚氏は三宅デザイン事務所在籍中に企業、学校の制服を手がけるなど、ユニフォームや作業着に興味を持っていた。そしてパリで見た清掃人の鮮やかなブルーの作業着。日本のそれとは違うプロらしさ、かっこよさに惹かれたという。その小野塚氏の提案から、ユニフォームの製造と販売を手がける、いわばこの業界のプロ、白洋社(会社分割により、現セブンユニフォーム)とタッグを組み新しいブランドとしてスタートした。

以後、不定期的におおよそ1年に1回のペースで新しいシリーズを発表している。シリーズはすでに20回を数えるが、ファッションとしての衣服ではないため、限定生産ではなく、特に需要の多いアイテムは継続販売されている。当初から変わらない基本コンセプトは、人が見てプロっぽさを感じるもの、着ている人がその視線も感じながらプロのカッコ良さを自覚、満足感のあるもの。加えて日本生産にこだわり、小ロットで丁寧に縫製されたもの、である。

シリーズ19のユニフォームから テーマは「HAKUI's Homestead」農家や農場主の家からイメージ

制作は小野塚氏とセブンユニフォームの緊密な連携から生まれる。まずは毎回発表する新シリーズの基本コンセプト決め。例えば17のシリーズでは「チョコ レート」をキーワードとして作られていった。これまでにない茶色を起用し、またフリル使いなど甘いテイストや、ツヤっとしたチョコレートを表現したエナメ ルも取り入れている。

シリーズ17のユニフォームから

基本コンセプトが決まった後、マスターデザインは小野塚氏に一任し、セブンユニフォームからの意見を入れることはないという。一つのシリーズにつき大体50案ほどが提案された後、約20アイテムに絞っていく。この際、プロのユニフォームメーカーとしてのセブンユニフォームの観点が重要となっていく。ズボンのタックの入れ方や、シャツやジャケットのディテールのバリエーションを小野塚氏は用意するが、それらすべてを生産するよりも、その中で汎用性の高いもの1つに絞ったほうが、生産する側も、選ぶ側も楽である。ファッションブランドではディテールの細かな違いを楽しむが、プロのユニフォームはむしろびしっと固定したスタイルであるほうがいい。
また、ユニフォーム業界としては小ロットとはいえ、ファッションブランドのロットとは異なる。基本イメージを壊さない中で、ある程度量産しやすい素材を選んでいくこともセブンユニフォームの経験がものを言う。
過去ズッカからも「ズッカトラバイユ」の名前で、作業着を思わせるシリーズが展開されていたが、ファッションブランドの一部であるズッカトラバイユと、プロユニフォームのHAKUIはやはり同じではないのだ。

一方で、あえてセブンユニフォームがファッションデザイナーを起用しているのは、社内の他ブランドと違う独自性があってこそである。HAKUIの独自性=ファッションデザイナーを使ったおしゃれ感、と考えるのは早急すぎる。むしろファッション性、つまり時流性に左右されないところに魅力を見いだして作られたブランドである。
加えて、着る人の働きと共にある服でもある。アイロンや糊が利きぱりっとした状態よりも、働きながら、ボタンを外したり袖をまくったり丈を自分に合わせて上げる、その人の身体独自の皺が寄ってくる、指したボールペンの形が残る、何度か洗って少しざらついてくる、こうした「働き」が味となるユニフォーム、その人のユニフォームになる服、であるところ、ここが最大の魅力ではないだろうか。

次回、来年春に発表予定の21回目のシリーズは、小野塚氏がフリーになってから初めてのものとなるが、これまでとはかなり変わったものになるとのこと。流行のファッション界から解放された小野塚氏が、改めて見るユニフォームのあり方とは何か、今から期待される。

(ライター:渡部千春、編集:上條桂子)

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アートブックの祭典TABF2011レポート

2011/07/20

世界中からアートブック、インディペンデントブック好きが秋葉原に集結した。
2011年7月16、17、18日の3日間、東京・秋葉原にある3331 Arts Chiyodaにて、今年で3回目となる「TOKYO ART BOOK FAIR 2011」が行なわれた。

第一回は原宿のVACANTとEYE OF GYREを会場に、2回目は同じく3331にて開催された。出展者の数は、1回目は70組、2回目は100組、そして今回は160組。そして、来場者の数も毎年多くなっており、イベントとしての成長を見せている。

デザインの現場webなので、それっぽいアートブックをいくつか紹介しておこう。そして、このイベントの一番の醍醐味は「本と本を作る人と本好きな人が出会う場」であることなので、できる限り作り手の顔を見せていこうと思う。(紹介は順不同)

Tomoko Yamashita 5 x 5

「上・中・下」というトリオで出展されていた、「下」担当のグラフィックデザイナー山下ともこさんの新しいzineは「5×5」。タイトルの通り、5×5の正方形が並んでおり、その制約の中で多彩なグラフィックを展開している。山下さんは昨年「TILE」という作品でADC賞を受賞している。

frogsfrogs_02

同じく「上・中・下」の「中」、中村至男さんのzine「frog」。カエルを様々な手法でグラフィック化している楽しい作品。個人的には、こちらの解剖ページが好み。「上」担当の井上庸子さんのarigatoの写真集も素敵だったんですが、写真撮りそびれてしまいました、無念。

jochuge上・中・下の店先です。オリジナルのうちわも3名それぞれの個性がにじみ出たアイコンが配されていました。

rain or shine booksrain or shine books.のブースです。

aya muto本の作り手は武藤彩さん。ロサンゼルス在住で編集・ライターの仕事をしながら、2005年よりzineを発行している。本を開くと、日常にあふれるふとした幸せがポンと目の前に提示されるような、微笑ましい写真が並ぶ。

guse_arsguse-arsというユニットの「Ceramic Tile Posterity」。海辺に落ちている陶器の破片を拾ってきて、その破片ひとつをもとにパターンを再構成し、再度陶器に焼き上げるという作品を以前につくっていたのだが、これはその続きというか発展系というか。海で拾ってきた陶器の破片をパターン化しタイルを焼く。そのタイルをハンマーで叩き割る。その時にできた破片の柄を集め、再度柄に構成し直してタイルに焼く。そしてまたそれを割る→タイルを焼く→割る。を繰り返し、パターンの痕跡を繋げていくという試み。延々と新しいパターンが生まれていく。
guse_ars拾い物でこんなにもおしゃれな本を作るguse arsのさわやかな二人。グセアルスって何? と思う方はウェブで。

いい顔(表紙)だと思い、つい立ち止まってしまったのが「chojin club」のブース。漫画家でありイラストレーターの西武アキラさんが編集長を務めるコミックzineだ。今回は新作の3号目を持って出展した。印刷も凝っていて、ニスや箔などを使って毎号表紙の印象は違い、本文も用紙の色と刷り色をうまくつかい、作家ごとの特色をわけている。デザインは、溝端貢さんが担当されていた。
右が編集長の西武さん。左は3号目にパンチのある漫画「くの一ウマ子」を寄稿した古郡加奈子さん。

Freiは、隔月で開催されているパーティーで配布されるアーティストブック。柴田ユウスケさんとタキ加奈子さんによるユニットsoda design(ソウダデザイン)が発行している。

soda designのお二人。今回special edition lounge with karimoku new standardのリーフレットのデザインも担当している。
special editionそれがこれである。
Special Edition Lounge とは、特装本がずらりとならぶコーナーのことで。
その場に入ると、白手袋をしたスタッフが待ちかまえている。
リトルプレスのような少部数のアーティストブックに変わりはないが、写真集にオリジナルプリントが付いてきたり、印刷された画集の上に手彩色が加えられていたり、そもそもつくるのが途方もない手間がかかる本だったり。とにかく、本好きな人や印刷好きな人が、うむむと唸るような本のオンパレードであった。

misako & rosenからは南川史門さんの「THE ABC BOOK special edition」。通常版は、Aから順にさまざまな具象的な絵が描かれているが、それが何を示すのかは描かれていずに想像するよう作られているが、スペシャル版では全ページにゴールドの鉛筆で手彩色が加えられ、しかもアルファベットの答えが描いてある。

fumio tachibanaギャラリー360°からは、立花文穂さんの「糸のしまつ」。立花氏が撮影した写真を中心とした本で、製本は作家自身が糸かがりをしている。紙の手触り(白手袋を通した)、ほつれ等、質感ごと立花氏の世界を堪能できる一冊。大判のポスターもついている。

arec sothアメリカ人写真家アレック・ソスとレスター・B・モリソンが手がけた作品集「Broken Manual」は、この写真集目当てに来たひともいたようで、人の列が途絶えることはなかった。これは、2006年から4年かけて行なわれたプロジェクトで、彼の視線は社会から一歩離れて暮らす人びとに目が向けられている。僧侶、修道女、都会から逃げてきた人びと……。300部限定で作られたスペシャルエディションは、古い写真集や画集の中身をくり貫いて、本文の部分を固めて箱にし写真集を収めた。さらに8×10のオリジナルプリントとサイン、小冊子「Liberation Billfold Manifest」がついている。ただただため息。

もっともっと紹介したい本はあったが、ひとまずここまで。
その他、女性によるアーティストブックを集めた「FEMININ Artist’s Publications by Women in the U.S.A. and Japan」エキシビションや80年代のスケーターがつくったジンのコレクションを展示する「THERE IS XEROX ON THE INSIDES OF YOUR EYELIDS」が行なわれていた。

今回は会場の構成が非常に見やすく、比較的目当ての店やよさそうな雰囲気の本が探し易かったように思う。そして、散財してしまった。
客層も幅広く、学生からご年配の方まで多くの人たちが本を手に取り、出展者と話をしている姿が見受けられた。東京の下町という土地柄のせいだろうか。

会期中はさまざまなイベントが催され、ものすごい賑わいを見せた3日間。来場者も前年を上回る盛況ぶりだったという。
多様な本の作り手が集まるTOKYO ART BOOK FAIR、細々とでもいいので長く続くイベントになることを願う。

【取材/上條桂子(編集者・ライター)】

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