【特集】着る人の自信を見せるユニフォーム HAKUI 

ファッションブランド「ズッカ」の創始者である小野塚秋良氏は、2011年春夏コレクションを最後にズッカを引退した。現在ズッカの店頭では2011年秋冬コレクションが並び、今後ズッカの店では小野塚氏のデザインを見ることはない。寂しいことだが、とはいえ小野塚氏がデザイン活動自体を辞めてしまったわけではなく、現在も小野塚氏がデザインを手がけるユニフォームのブランド「HAKUI」は継続中である。

hakui web
https://www.hakui-shop.com/
Photo/t7、t15、t16、t20=MISCHA RICHTER、t17、t18、t19=CHRIS BROOKS

HAKUIが始まったのは1992年。それ以前から小野塚氏は三宅デザイン事務所在籍中に企業、学校の制服を手がけるなど、ユニフォームや作業着に興味を持っていた。そしてパリで見た清掃人の鮮やかなブルーの作業着。日本のそれとは違うプロらしさ、かっこよさに惹かれたという。その小野塚氏の提案から、ユニフォームの製造と販売を手がける、いわばこの業界のプロ、白洋社(会社分割により、現セブンユニフォーム)とタッグを組み新しいブランドとしてスタートした。

以後、不定期的におおよそ1年に1回のペースで新しいシリーズを発表している。シリーズはすでに20回を数えるが、ファッションとしての衣服ではないため、限定生産ではなく、特に需要の多いアイテムは継続販売されている。当初から変わらない基本コンセプトは、人が見てプロっぽさを感じるもの、着ている人がその視線も感じながらプロのカッコ良さを自覚、満足感のあるもの。加えて日本生産にこだわり、小ロットで丁寧に縫製されたもの、である。

シリーズ19のユニフォームから テーマは「HAKUI's Homestead」農家や農場主の家からイメージ

制作は小野塚氏とセブンユニフォームの緊密な連携から生まれる。まずは毎回発表する新シリーズの基本コンセプト決め。例えば17のシリーズでは「チョコ レート」をキーワードとして作られていった。これまでにない茶色を起用し、またフリル使いなど甘いテイストや、ツヤっとしたチョコレートを表現したエナメ ルも取り入れている。

シリーズ17のユニフォームから

基本コンセプトが決まった後、マスターデザインは小野塚氏に一任し、セブンユニフォームからの意見を入れることはないという。一つのシリーズにつき大体50案ほどが提案された後、約20アイテムに絞っていく。この際、プロのユニフォームメーカーとしてのセブンユニフォームの観点が重要となっていく。ズボンのタックの入れ方や、シャツやジャケットのディテールのバリエーションを小野塚氏は用意するが、それらすべてを生産するよりも、その中で汎用性の高いもの1つに絞ったほうが、生産する側も、選ぶ側も楽である。ファッションブランドではディテールの細かな違いを楽しむが、プロのユニフォームはむしろびしっと固定したスタイルであるほうがいい。
また、ユニフォーム業界としては小ロットとはいえ、ファッションブランドのロットとは異なる。基本イメージを壊さない中で、ある程度量産しやすい素材を選んでいくこともセブンユニフォームの経験がものを言う。
過去ズッカからも「ズッカトラバイユ」の名前で、作業着を思わせるシリーズが展開されていたが、ファッションブランドの一部であるズッカトラバイユと、プロユニフォームのHAKUIはやはり同じではないのだ。

一方で、あえてセブンユニフォームがファッションデザイナーを起用しているのは、社内の他ブランドと違う独自性があってこそである。HAKUIの独自性=ファッションデザイナーを使ったおしゃれ感、と考えるのは早急すぎる。むしろファッション性、つまり時流性に左右されないところに魅力を見いだして作られたブランドである。
加えて、着る人の働きと共にある服でもある。アイロンや糊が利きぱりっとした状態よりも、働きながら、ボタンを外したり袖をまくったり丈を自分に合わせて上げる、その人の身体独自の皺が寄ってくる、指したボールペンの形が残る、何度か洗って少しざらついてくる、こうした「働き」が味となるユニフォーム、その人のユニフォームになる服、であるところ、ここが最大の魅力ではないだろうか。

次回、来年春に発表予定の21回目のシリーズは、小野塚氏がフリーになってから初めてのものとなるが、これまでとはかなり変わったものになるとのこと。流行のファッション界から解放された小野塚氏が、改めて見るユニフォームのあり方とは何か、今から期待される。

(ライター:渡部千春、編集:上條桂子)

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