DESIGN TIDEメイン会場で気になったデザイナーをもう少し紹介します。元木大輔氏がベルギーのsixinchというファニチャーメーカーとタッグを組んで生まれた「フリップ・シリーズ」というリバーシブル・ファニチャー。家具を裏返すってどういうことだ? と思ったら、その通り、ひっくり返して使うものだった。 hotyoga-info.com
これはひっくり返すとロッキングチェアになるソファ。その他、チェアからスツールになるもの、高さが変わるチェアになるもの、と3タイプ。子どもの頃に椅子をひっくり返して、カウンターを作ったり、それが車になったりと遊んだことを思い出した。プレイフルで楽しい家具である。キースへリングにオマージュを捧げたというコースターのイラストもこの家具に合っていてよいなあと。
DESIGN SOILというプロジェクト。これは神戸芸術工科大学の田頭章徳助教がディレクターとなり、有志の学生を集めて立ち上げたもの。テーマは簡単「梱包状態で飛行機の機内持ち込み手荷物規定サイズに収まる」家具である。輸送コストをかけず配送したい、旅先で出会った家具をそのまま持ち帰りたい。そして、ミラノサローネに手持ちで持っていきたい。さまざまな思惑がこのプロダクトに込められたのだ。左の「TRAME」は2枚のトレイをフレームにおさめることで棚になるというプロダクト。右のSLASHはスパッと日本刀で竹を切ったような潔いコートスタンド。下のPROPは組木シェルフである。パーツに分けると非常にコンパクトになる。どれも。
YANOBIによる「Snow Plate」も素敵であった。雪にぐっぐっと何かで押された跡がついたような不均一なくぼみのあるプレート。オードブルを乗せる時にはもちろん普通に使えるが、刺し身をのせるときにこのくぼみにしょうゆを垂らしたり、ゆで卵を乗せる時に塩を置いたり。料理の皿を完全にセパレートしたくはないが、向こうの領域に犯されては困るような状況はよくあることだろう。食事を振る舞うことが好きな人が考えたと思われる、気の利いたデザインだ。
デザイナーの鈴木篤、木工・家具デザイナーの竹内秀典、写真家・グラフィックデザイナーの大西正一によるデザインプロジェクトrabbit hole。りんごの形をしたペンシルシャープナー。大きいじゃないか、と思ったが、鉛筆の削りカスがシュルシュル出てくる様が、リンゴの皮を剥いた時のように見える。その話を聞いて、俄然この品が欲しくなった。すべてのプロダクトにそのようなひとネタストーリーがあるそうだ。
Design Tideの今年のプロダクトを見ていて、やはりいまの時代にモノ作りをする人たちはよほどのことを考えなくてはいけないのだということを再度思い知らされた。単に作りたいという欲求だけでは、ムダな労力と資源の浪費にしかならない。機能なんてあって当たり前のことで、プラスアルファの要素をどこに持ってくるか、ユーモアか、装飾か、思考の転換か、はたまた作り手自身の魅力か……。モノを作る方も切実だろうが、買う方も必死である。薄い財布のヒモを握りしめながら、本当に欲しいものを求める。ゴージャスな家具など到底手に入らないが、大量生産品ではなんとも味気ない、そうした心の隙間にピッとフィットするものに多少なりとも対価を払いたいという気持ちになる。そう考えているのは私だけではないだろう。
だが、そう簡単にモノは売れないよということを大半のデザイナーが熟知していており、それを踏まえた上で、流通・販売のことまで考え、試行錯誤している様がひしと伝わってきた。
これ以上新しいモノは要らない、と言い捨てることは簡単だが、そこで思考までストップしてしまっては一歩も先に進めない。今回様々な角度からのトークが催されるのも、未来のデザインの姿について、結論なんて誰にも分からないが、いまは「語ること」が必要なのかもしれない。
取材・文/上條桂子(フリー編集者)