『DESIGN』編集長、ジェン・ユンキュン氏インタビュー

『DESIGN』編集長、ジェン・ユンキュン氏インタビュー
(インタビュー:渡部千春)

印刷媒体としての『デザインの現場』がなくなってから早いもので、もう1年。『デザインの現場』に限らず、デザイン情報を伝える紙の媒体は減ってきている。出版社により事情は異なれ、主な背景としては情報を伝える手段が、紙からデジタルへと移行していることがある。
海外のデザイン誌はどうなのか?お隣韓国のデザイン誌、『DESIGN』 https://www.design.co.kr/ の編集長、Eunkyung Joen ジェン・ユンキュン氏に話を聞いた。

『DESIGN』は1976年に創刊。月刊で、今年の10月で400号を迎える。読者層はデザインを学ぶ学生、デザイナー、デザイン関連、マーケティングの人々など。驚くのは発行部数で、毎月2万から3万部という。
価格は1万2千ウォン(約870円 取材時2月後半時点のレート)と、比較的手頃だからとも言えるが、人口が日本の約2/5、国民の平均年収が約半分の国で、と考えると、日本で1800円の月刊専門誌がコンスタントに4万から5万部売っているようなもの。もちろん韓国国内で最もメジャーなデザイン誌だ。

ジェン・ユンキュン氏は2005年から『DESIGN』誌に入り、副編集長を経て、今年の2月に編集長に就任した。

— 韓国というとインダストリアルデザインが強いという印象がありますが、『DESIGN』が扱っている内容はインダストリアルデザインが主なのでしょうか?
「内容はグラフィックとプロダクトが半々です。インテリアも時々取りあげています」

— 総合的なデザイン雑誌なんですね。現在韓国のデザインのトレンドなどはありますか?
「デザイナーと工芸職人のコラボレーション、サービスデザイン、 デザインの社会貢献プロジェクトなどがありますね」

— 日本では紙の媒体、『デザインの現場』という雑誌もそうなのですがカルチャー誌などがどんどん減って行っている状況です。出版業界は紙にするのか、デジタルに移行するのか迷いを見せています。韓国でもこの事情は同じでしょうか?
「デザイン雑誌の業界、出版業界が厳しいのはこちらでも変わりません。同時に『DESIGN』としては過渡期でもあるのです。韓国国内で3万部、これ以上に読者を増やすことは無理だと感じています。印刷媒体としてのピークにあり、また現状、紙媒体が減っていることには悩んでいますが、次の段階に行くための実験を色々と行っているところです」

— 具体的にはどういったことでしょうか?
「まずはウェブサイト。現在はiPadで読めるアプリケーションを展開しています。以前はQRコードで携帯電話から読める方法をやっていましたが、あまり反応がなく現在は辞めています。
iPadのアプリケーションは現在(2月取材時)2万部を発行しています。出したばかりの時はアプリケーションとして1位にランキングされたこともあるのですが、これは無料だからということもあると思います」

『DESIGN』のiPadアプリ
https://itunes.apple.com/jp/app/monthly-design/id408366567?mt=8

— 内容は本誌と同じですか?

「iPad用の内容は、紙の雑誌と同じ内容ですが、全部まるごと載せるわけではなく抜粋したものです。紙との差別化として、製品写真の色のバリエーションを変えることができたり、動画を付けたり、独自の工夫をしています」

— 本誌、ウェブ、iPad アプリケーションもハングル語ですが、デジタル媒体は海外でも見ることができるので、海外の読者を増やすことも可能かと思います。翻訳機能や英語のサマリーを付けて出すということは考えませんか?
「それは考えていません。本誌にしても翻訳を入れるとしたら、スケジュールも労働力も変わってきますね。韓国のデザインに対しどれだけ海外の需要があるのか分からない、費用対効果がどれだけあるのか分からないからです。現状、このiPad用のアプリケーションは広報用の投資で、収益目的ではありません」

— こうした雑誌のデジタル化の動きは韓国では盛んなのでしょうか?
「eBook市場に対して出版業界はみんな興味を持っていると思います。しかし韓国の状態で言えば、大手出版社はまだ様子見をしているようです。独自のデジタルコンテンツを作ろうと思えば、ある程度お金が掛かることだけに、やるかやらないか決めかねている、まだ戦略を決めかねている、という状況です」

『DESIGN』を発行している出版社、デザインハウスは『DESIGN』の他、ライフスタイル誌『my wedding』『Luxury』『Mens Health』など6誌を発行、随時書籍も出版、またイベントに伴う出版、デザイン業務なども行っている。社員数は200名ほど。中規模の会社であり、また社内でデザイン、デジタルコンテンツを作成できることから、iPad アプリケーションのようなデジタル媒体にすぐ着手できる身軽さがある。

— 今月(取材時の2月)に編集長就任したばかりと聞きましたが、編集長が変わったことで、今後『DESIGN』の方向性を変えていく考えはありますか?
「今のところ雑誌自体の方向性を変える計画はないですね。印刷媒体の雑誌がすぐなくなるということはないでしょう。
紙の本誌が基幹ですが、最も重要なのは内容で、編集者としてはどんな形であれ、どのように見せるか、が重要なのです。ですからiPadに限らず、他の媒体が出てきた時は積極的に実験していこうと思っています。
また、紙の発行部数にはこだわらないようにしています。読者層を増やすことが目的なのであれば、紙である必要はないわけです。iPadで見る人がいるのであれば、紙が減るのも当然です。
ただ、オンラインとオフラインの両方を持つように心がけています。iPadで見れるようになったことで、新しい読者が出来るのかもしれないですし、両方合わせて読者が増えればいいと思います」

インタビューを終えて、日本も韓国もほぼ事情が同じだと感じたが、紙かデジタルか、という迷いがある場合は、『DESIGN』のように新しい媒体にも躊躇せず入っていく、そこでの経験を積んでおくこと、こうして並行していくことは非常に有効だろう。
そして、媒体はどうあれ「どのように見せるかが重要」という言葉は肝に銘じておきたい。私自身がそうなのだが、ウェブ媒体の執筆時、スピードに気を取られてしまい、内容のよさ、見せ方がおろそかになりがちではある。信用されるメディア、信用される編集、信用される書き手でなければ、どのような媒体でも生き残っていくことは難しいのである。

『DESIGN』横226×タテ275mm オールカラー約146ページ(2011年2月号の場合) 12000ウォン 発行 Design House
https://www.design.co.kr/

カテゴリー: 特集記事   パーマリンク

コメントは受け付けていません。