アートブックの祭典TABF2011レポート

世界中からアートブック、インディペンデントブック好きが秋葉原に集結した。
2011年7月16、17、18日の3日間、東京・秋葉原にある3331 Arts Chiyodaにて、今年で3回目となる「TOKYO ART BOOK FAIR 2011」が行なわれた。

第一回は原宿のVACANTとEYE OF GYREを会場に、2回目は同じく3331にて開催された。出展者の数は、1回目は70組、2回目は100組、そして今回は160組。そして、来場者の数も毎年多くなっており、イベントとしての成長を見せている。

デザインの現場webなので、それっぽいアートブックをいくつか紹介しておこう。そして、このイベントの一番の醍醐味は「本と本を作る人と本好きな人が出会う場」であることなので、できる限り作り手の顔を見せていこうと思う。(紹介は順不同)

Tomoko Yamashita 5 x 5

「上・中・下」というトリオで出展されていた、「下」担当のグラフィックデザイナー山下ともこさんの新しいzineは「5×5」。タイトルの通り、5×5の正方形が並んでおり、その制約の中で多彩なグラフィックを展開している。山下さんは昨年「TILE」という作品でADC賞を受賞している。

frogsfrogs_02

同じく「上・中・下」の「中」、中村至男さんのzine「frog」。カエルを様々な手法でグラフィック化している楽しい作品。個人的には、こちらの解剖ページが好み。「上」担当の井上庸子さんのarigatoの写真集も素敵だったんですが、写真撮りそびれてしまいました、無念。

jochuge上・中・下の店先です。オリジナルのうちわも3名それぞれの個性がにじみ出たアイコンが配されていました。

rain or shine booksrain or shine books.のブースです。

aya muto本の作り手は武藤彩さん。ロサンゼルス在住で編集・ライターの仕事をしながら、2005年よりzineを発行している。本を開くと、日常にあふれるふとした幸せがポンと目の前に提示されるような、微笑ましい写真が並ぶ。

guse_arsguse-arsというユニットの「Ceramic Tile Posterity」。海辺に落ちている陶器の破片を拾ってきて、その破片ひとつをもとにパターンを再構成し、再度陶器に焼き上げるという作品を以前につくっていたのだが、これはその続きというか発展系というか。海で拾ってきた陶器の破片をパターン化しタイルを焼く。そのタイルをハンマーで叩き割る。その時にできた破片の柄を集め、再度柄に構成し直してタイルに焼く。そしてまたそれを割る→タイルを焼く→割る。を繰り返し、パターンの痕跡を繋げていくという試み。延々と新しいパターンが生まれていく。
guse_ars拾い物でこんなにもおしゃれな本を作るguse arsのさわやかな二人。グセアルスって何? と思う方はウェブで。

いい顔(表紙)だと思い、つい立ち止まってしまったのが「chojin club」のブース。漫画家でありイラストレーターの西武アキラさんが編集長を務めるコミックzineだ。今回は新作の3号目を持って出展した。印刷も凝っていて、ニスや箔などを使って毎号表紙の印象は違い、本文も用紙の色と刷り色をうまくつかい、作家ごとの特色をわけている。デザインは、溝端貢さんが担当されていた。
右が編集長の西武さん。左は3号目にパンチのある漫画「くの一ウマ子」を寄稿した古郡加奈子さん。

Freiは、隔月で開催されているパーティーで配布されるアーティストブック。柴田ユウスケさんとタキ加奈子さんによるユニットsoda design(ソウダデザイン)が発行している。

soda designのお二人。今回special edition lounge with karimoku new standardのリーフレットのデザインも担当している。
special editionそれがこれである。
Special Edition Lounge とは、特装本がずらりとならぶコーナーのことで。
その場に入ると、白手袋をしたスタッフが待ちかまえている。
リトルプレスのような少部数のアーティストブックに変わりはないが、写真集にオリジナルプリントが付いてきたり、印刷された画集の上に手彩色が加えられていたり、そもそもつくるのが途方もない手間がかかる本だったり。とにかく、本好きな人や印刷好きな人が、うむむと唸るような本のオンパレードであった。

misako & rosenからは南川史門さんの「THE ABC BOOK special edition」。通常版は、Aから順にさまざまな具象的な絵が描かれているが、それが何を示すのかは描かれていずに想像するよう作られているが、スペシャル版では全ページにゴールドの鉛筆で手彩色が加えられ、しかもアルファベットの答えが描いてある。

fumio tachibanaギャラリー360°からは、立花文穂さんの「糸のしまつ」。立花氏が撮影した写真を中心とした本で、製本は作家自身が糸かがりをしている。紙の手触り(白手袋を通した)、ほつれ等、質感ごと立花氏の世界を堪能できる一冊。大判のポスターもついている。

arec sothアメリカ人写真家アレック・ソスとレスター・B・モリソンが手がけた作品集「Broken Manual」は、この写真集目当てに来たひともいたようで、人の列が途絶えることはなかった。これは、2006年から4年かけて行なわれたプロジェクトで、彼の視線は社会から一歩離れて暮らす人びとに目が向けられている。僧侶、修道女、都会から逃げてきた人びと……。300部限定で作られたスペシャルエディションは、古い写真集や画集の中身をくり貫いて、本文の部分を固めて箱にし写真集を収めた。さらに8×10のオリジナルプリントとサイン、小冊子「Liberation Billfold Manifest」がついている。ただただため息。

もっともっと紹介したい本はあったが、ひとまずここまで。
その他、女性によるアーティストブックを集めた「FEMININ Artist’s Publications by Women in the U.S.A. and Japan」エキシビションや80年代のスケーターがつくったジンのコレクションを展示する「THERE IS XEROX ON THE INSIDES OF YOUR EYELIDS」が行なわれていた。

今回は会場の構成が非常に見やすく、比較的目当ての店やよさそうな雰囲気の本が探し易かったように思う。そして、散財してしまった。
客層も幅広く、学生からご年配の方まで多くの人たちが本を手に取り、出展者と話をしている姿が見受けられた。東京の下町という土地柄のせいだろうか。

会期中はさまざまなイベントが催され、ものすごい賑わいを見せた3日間。来場者も前年を上回る盛況ぶりだったという。
多様な本の作り手が集まるTOKYO ART BOOK FAIR、細々とでもいいので長く続くイベントになることを願う。

【取材/上條桂子(編集者・ライター)】

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